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2012年6月 6日 (水)

Bibliophilia

046

本屋さんが好きた。
東京に来た当初は神田の古本屋だの、
紀伊國屋だの、八重洲ブックセンターだの、
名古屋にないような大きな本屋がうれしくて、
ひっきりなしに通っては本をしこたま買い込んだ。
そうやって買い込んだ本を壁一面の本棚に並べて、
背表紙が茶色に染まるまで煙草をふかし、
読書にふける。体には悪いけれど、
自分としてはまさに至福の時間である。

手に入れた本を売りとばしたりはしない。
今までに人生で2回、生活に困って本を売ったことがあるけれど、
その時のみじめな気持ちは忘れられない。
十万円近くかかった本が一万円にもならなかった。

それでも、ページが黒ずんでいる画集を見た老店主が、
「よく勉強なさりましたね。」
と言ってくれたのは、とてもうれしかった。

古書店の店主は、情報をつかむために割とよく声をかけてくる。
以前、小川国男の「アポロンの島」の文庫本を掘り当てたときは、
「ひょっとして初版をお持ちですか」
と声をかけられた。
これは高校の詩人の先生の受け売りなのだけど、
小川国男の「アポロンの島」は希少本の代名詞になっている。
私家本として少部数しか発行されなかったのを、
島尾敏雄に新聞紙上で取り上げられ、激賞されたからだ。
古書店の店主にとっては、「アポロンの島」を掘り出した自分が
宝の地図に見えたのかもしれない。

古書店の店主は世のビブロフィリア(愛書家)たちとのコネクションを作って
世に埋もれている希書名著の類を手に入れたいと思っている。
そこには価値がわからず破棄される本を救済したいという気持ちと、
希少な本を発掘して売りたいという商魂とがないまぜになって
なにやらどす黒く渦巻いているような気がする。

希少本といえば、太宰治の「人間失格」の初版本を見たことがある。
まだ中学生だった頃、近所の老紳士の家で、
父と紳士の世間話の合間に、居間の大きな本棚を眺めていて
経理とか宗教関係の本の合間にあるのを発見して、びっくりした。
さすがに古びていたが、その装丁で読んだ冒頭の三枚の写真のくだりは
強く心に焼き付いている。
たとえばの話、ネット上で古写真を見ても、「ふーん」で済んでしまうけれど、
古いアルバムで終戦後間もないセピア色の写真を見ると、眠っていた膨大な時間が
埃の中から立ち上ってきて、その時代の空気に心が浸食される感じがする。
古書にはそれと同じ魔術めいた力がある。
おそらく、古書店めぐりをする方たちの記憶のどこかには
そういう古書と時間にまつわる原体験があるのではないかと思う。

あの太宰の初版本は今頃どうしていることか。
数年後、その老紳士がお亡くなりになり、後始末をうちの母が手伝ったのだけど、
なんでも古書屋が入って片っ端から持って行った、という話だった。






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