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2012年8月13日 (月)

夏目×ホームズ その1

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俗にシャーロキアンと呼ばれる人たちがいます。
熱狂的ホームズマニア、ホームズ愛好家など、いろいろ呼び方はありますが、
イギリスの生んだ名探偵シャーロック・ホームズをこよなく愛する方たちです。

シャーロック・ホームズは売れない開業医の若者がリンゴ箱の上で想像したキャラクターです。
なかなか客が来ないので、自分の恩師の風変わりな教授をモデルに、
長編小説を一本書き上げてしまった。それがホームズシリーズの記念すべき第一作、
「緋色の研究」です。

ときは19世紀末期、ビクトリア朝大英帝国。
インド帰りの軍医、ジョン、あるいはジェームズ・ワトソンは、
肩、あるいは足に負傷してロンドンに戻ってきます。
新しく住む部屋を探していたところ、友人から
「変人でよければ」
と、ルームシェアの相手を紹介されます。それがシャーロック・ホームズでした。
探偵業をなりわいとしているその奇妙な男は、ワトソンがインド帰りの軍人であることを
たちどころに見抜き、ワトソンを驚かせます。

……こうして二人の冒険の物語は始まるのですが、
この物語にはいくつかの矛盾が存在します。作者のコナン・ドイルが
作品掲載時の設定上のミスやトリックの不整合を修正しなかったからです。

普通の作品なら、単行本収録時の修正は当然行います。
しかし、シャーロック・ホームズシリーズの場合、ものが推理小説ですし、
あとでゴチャゴチャ修正するのはフェアではありません。
クイズの問題を出しておいて、あの問題はなかったことにして、とは言えません。

それにホームズ作品は一部を除き、すべてワトソンが友人シャーロック・ホームズの
素晴らしい仕事を紹介するという形をとっているので、
あとで修正したのではその仕掛けを台無しにする恐れもあります。
シャーロック・ホームズは実在する、その前提で語られているのに、
細かい設定を修正していたのでは作り手の作為が見えてしまうからです。

かくして、作者サー・アーサー・コナン・ドイルが間違いを修正しなかったために、
ワトソンにはジョンとジェームズという2つのファーストネームが存在することになり、
インド時代の負傷箇所が足だったり肩だったりと、コロコロ変わることになります。
結婚相手ですら、厳密に調べると二人存在することになるそうです。

こういう、作者のミスを調べ上げ、それをただのミスで終わらせず、
強引に理由付けをして楽しむのが、シャーロック・ホームズの愛好家たち、
「シャーロキアン」なのです。

まあ、ただのオタクなんですけどね。

それでも日本人が考えるオタクとはずいぶんスケールが違います。
なにしろホームズシリーズは「聖書の次に読まれている本」
と言われているくらいで、上記のようなワトソンの名前ネタなどは
ごく普通のイギリス人でも知っているはずです。
オタクの知識が一般常識のレベルまで普及しているわけです。


自分が高校生の頃、「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎」という映画を観ました。
高校の授業の一環として、映画館を貸し切ってみんなで観たのですが、
その映画の冒頭で、
「この映画の最後に衝撃の事実が明かされるので、席を立たないで最後までご覧ください。」
というテロップが流れました。
当然、みんな期待します。きっとすごい驚きのネタが待っているのだろう、
もう本編なんてどうでもいいからとっとと最後のシーンを見せてくれ、となります。
(実際、本編がどんな話なのか忘れてしまった)
そしていよいよ最後のシーンなのですが、
「衝撃の事実」が明かされても、大多数の生徒がそれを理解できなかったようです。
明るくなった映画館の中で「今のどういう意味?」「わけわかんない」
「モリアーティって誰よ?」
というささやきが交わされていました。

当時、自分のクラスメートにシャーロキアンが一人いたのですが、
彼は当然、モリアーティが何者か知っていたので
「実はモリアーティとか古典的なネタだよね」
と笑っていました。

ホームズの宿敵といえばモリアーティ教授。これはイギリスでは一般常識なわけです。

日本人でシャーロック・ホームズを知らない人はほとんどいないと思われますが、
その細かい設定まで知っているのは少数派なのかもしれません。
けれど、イギリスやアメリカで作られるホームズの映像化作品は
その細かい設定をみんなが知っていることが前提なので、
その前知識がない人がこれを見るとすごく「オタクっぽい作品」に見えてしまいます。
まあ、オタクなんですけどね。

自分はこの1980年代中頃、NHKで放送されたグラナダ放送版の
「シャーロック・ホームズの冒険」を観ていたクチで、
今でもホームズと言えばジェレミー・ブレッドの端正な顔立ちを思い浮かべます。
もう、あれさえあれば他のホームズの映像化は必要ないとまで思っているのですが、
最近テレビや劇場で見るホームズ作品はあれに迫るくらい、よく出来ています。

BSプレミアムでやっていたBBC放送版の「SHERLOCK」は
現代を舞台にしたホームズとしてはかなりレベルの高いものだと思います。
携帯電話を駆使するホームズは新鮮で、その上、細かい設定がよく出来てます。
原作を知っていると滅茶苦茶面白いです。

あと、ハリウッド版のシャーロック・ホームズもありました。
あの第1作を観て、アイリーン・アドラー嬢の扱いに「おや」と思った
ホームズ・ファンの方たちは多いのではないでしょうか。

さて、ここからがやっと本題です。

アイリーン・アドラー嬢は短編第1作「ボヘミアの醜聞」に登場する女性で、
本編での出番はこの一遍のみです。

ホームズの生きた時代の英国はビクトリア女王の統治していた頃で、
この家庭的で潔癖な女王の影響で、イギリス人の倫理観が最高に高まった時代でした。
性的な放埓などは、この女王の前ではおくびにだって話題にできません。
本質的には下ネタが大好きなイギリス人ですが、当時は表面的には紳士風を装っていたのです。

そのビクトリア朝の倫理観とは真っ向から対立するような恋多き女性、
それがアイリーン・アドラーです。
彼女によってホームズは翻弄され、手痛いミスを犯します。
探偵としては致命的な失敗だったのですが、事件はかろうじて丸く収まります。
以来、ホームズは自分を手玉に取ったこの女性を「あのひと」と呼び、
その写真を持ち続けるようになるのです。
まあ、初期の作品ですので、ドイルも少しロマンチックな恋話を書いてしまった、
といったところなのでしょうが、シャーロキアンはそれで終わらせません。

「生真面目なコナン・ドイルは本当の話を書けなかったに違いない。」

というゲスの勘繰りを始めます。
彼らにとってシャーロック・ホームズは実在の人物であり、ドイルはそのキャラクターの
代弁者にすぎません。二次元萌えです。オタクの末期症状と言ってもいい。
そういう彼らにとってドイルは「ビクトリア朝の潔癖すぎるおっさん」であり、
「シャーロック・ホームズの真実の姿を捻じ曲げている」ことになります。

その結果、
「本当はホームズはアドラー嬢と出来てしまったのだ。」
というとんでもない「真実」が「あぶり出され」ます。
探偵が捜査対象と恋仲になるのは依頼主に対する裏切り行為です。
ですからホームズは仕事が失敗したなどという嘘をついて依頼主の目を誤魔化したのだ、
真実を知っているコナン・ドイルはそのような破廉恥な話を書けなかったので、
「アドラー嬢に逃げられた」という話にして体裁を取り繕ったのだ、と。

コミケに薄い本が出てしまいそうなノリです。

ハリウッド版のシャーロック・ホームズは、
この「シャーロキアンの妄想」をそのまま採用していたのでちょっと面喰いました。
おそらく、本国イギリスやアメリカなどでは
アドラーとホームズが実は特別な関係を結んでいた、なんてのは当たり前のネタなのでしょう。
(調べたら原作はコミックだそうです。さもありなん。)

続く

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