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2013年7月 6日 (土)

出前の話 その1

21世紀はネット通販な時代になってしまった。

街を歩けば、この10年ばかりで贔屓にしていた店は次々とシャッターを下ろし、
ついに、町から本屋やら魚屋やらが姿を消してしまった。
残ったのは不動産屋とコンビニエンスストアーばかりだ。
だから、ちょっと何かを買おうというとき、
時間をかけて大きな街、たとえば池袋なんてところまで行くよりは、
アマゾンや楽天でいいや、ということになる。
小腹がすけば、ピザだって頼める。(あんまり頼んだことないけど)
電化製品だって、ネットで買った方が安い場合だってある。おかげさまで、
その気になれば通販だけで何とか生きられそうな今日この頃だ。

あと十年もしたら、通販が当たり前で、
町の小売店は生活のためよりは趣味で開店したサロン風の店ばかりになるかもしれない。
というか、もう実際そういう店ばかりになってる。
会社の役員様が退職後に開いた手打ちそばの店とか、
誰が買うんじゃってな不思議な婦人服を売ってる奥様の店とか、
ぶらりと入るとあんまり家庭的なので落ち着かなくなる喫茶店とか。

つまるところ、町の小売業は流通の仕組みに吸収されてしまったわけで、
こうなると宅配のドライバーさんにも「接客業」であることが求められるようになる。
佐川にしても、クロネコにしても、
頭の下がるような丁寧な仕事をしてくれる人たちは多い。
まあ、中には突然世間話を始めるような人もいるけど。

自分も一年くらい、ラーメン屋で出前のアルバイトをしたことがある。
リアルタイムで配達日記みたいなブログをやるのはマナー違反だと思うけど、
自分がやってたのは20世紀の話だし、まあ、ちょっと書いてみる。

駅前のラーメン屋だったけれど、小さな町だったので、
駅前以外は完全に住宅街だった。そこに間を縫うように事務所があった。
北上するほどお金持ちの家が多くなり、
一番大きなお屋敷のあたりになると、日曜の夜に弦楽四重奏でシューベルトを演奏してた。
確か「死と乙女」だったと思う。
家族だか仲間と集まって合奏をするというのは、
絵にかいたようなお金持ちだよなと、自転車をお屋敷の前に止めてしばし聞き入っていた。
もっとも、そのお屋敷からラーメンの注文が来たことはついぞなかったけど。

公園を清掃するお年寄りの親父さんにはすぐ顔を覚えられた。
「漫画を描くんだってね」
と、野良の子猫を紐でつないで手渡されたことがあった。
「スケッチにいいんじゃないかと思って捕まえてやったよ」
……子猫は僕の手の中で壊れたポンプみたいに心臓をドキドキさせていた。
このままでは死んでしまうと思ったので、
「モデルが嫌がってるから」と、その場で解放してもらった。
お礼を言って仕事に戻った。

アパートで一人暮らしのおばあちゃんのところに出前に行ったら、
「若いのに偉いね」
と、なぜか封筒に入った2千円を料金とは別に渡されたことがある。
「頂けません」
と断ったら少しさびしそうにしていた。

お年寄りは、寂しい人が多いなと感じた。

出前に行ったら玄関にブラジャー丸出しの女性がいたことがある。
もっとも、それは解体屋を仕切っている女社長のおばちゃんで、
性別なんてものはとっくに超越したような存在だった。
自分も慌てるよりは「さすがにいい筋肉してるな」と感心してちょっと見とれた。

そういえば、このおばちゃんはお店にいらしたとき、
「お姉ちゃんいいケツしとるな」と僕のお尻を撫で回したことがある。
「僕は男の子ですよ」
と怒ったら「ガハハハハ」と大笑いしていた。そういう人である。

この解体屋のおばちゃんはダックスフントを三匹くらい飼っていた。
これが、出前に行くと猛烈に吠えかかってきた。
他にも何件か、ダックスフントを飼っている家があったけど、
例外なく、奴らはデリバリーのあんちゃんである自分に吠えかかってきた。
おかげで、今でもダックスフントを見ると自分は逃げる。
あんな凶暴な犬はいないと思う。
飼い主に言わせると、ご主人想いで愛らしい犬らしいけど。

そのダックスフントを庭で飼っている家で、
出前のたびに「ここは私が食い止めるから、今のうちに早く!」
と変なフラグが立ちそうなセリフを言う奥様がいた。
犬が狂ったようにきゃんきゃん吠えているのを、胸でしっかりと抱き止めていた。
「急いで!」
玄関を開けると年頃の御嬢さんがいて、
「さあ、どうぞこちらへ」
と下駄箱の上にラーメンを並べさせる。
出前に行くたびにこの寸劇が繰り返された。。
なんだか変なファンタジー物のRPGをやっている気分になる。

逆に、大人しい犬もいる。
広い玄関でシベリアンハスキーを飼っている家があって、
この大型犬は僕が近づいてもまったく吠えなかった。
そういえばこいつはオッドアイなんだよなと思って、顔を近づけて目を覗き込んだけれど、
色違いの双眸は湖のように静かに澄み切っていた。
「大人だね」
と褒めると、奥様がニコニコしながら「ありがとう」と答えた。
もちろん、犬に言ったのである。

デリバリーは人様の家の玄関までいくので、
その私生活を覗き見てしまうことも多い。
高級マンションでロックを解除してもらって部屋まで上がったら、
彫り物を入れたアートなお兄さんがいて、
「オセーヨ、トットトモッテコイヨ」
とお怒りになったことがあった。
玄関にラーメンを出そうとしたら
「ユカヨゴスンジャネーヨ」
と怒鳴られて、結局リビングまで言ってテーブルの上に料理を並べさせられた。
とてもアートな部屋でドンキホーテで売ってそうイルミネーションがたくさん並んでいた。
しげしげと眺めていたら、
「ジロジロミテンジャネーヨ」
と、また怒鳴られた。

一度だけ交番に出前をしたことがある。
そこは普段はライバルの蕎麦屋を贔屓にしていたのだけど、その店が改装工事だったのだ。
「上に持ってって」
と言われたので、狭い階段を岡持ちを抱えて上がると、
寝転んでテレビを観ているポリスマンがいた。
「そこに置いといてよ」と顔だけこちらに向けてテーブルの上を顎で示した。
……いかついお巡りさんもただのおっさんなのだなと、当たり前のことを考えた。

「毎度○○です」
と玄関を開けると、歯磨きをしている四十前の奥様がいた。
「フガフガフガ」
と、靴箱の上を置くよう顎で示した。
わざとだったのだろうか、料金を払う間も、
「フガフガフガ」
と歯ブラシを咥えたままでお札を出した。
有閑マダムには突拍子もない行動をして若い男の反応を楽しむご婦人が多い。

雨が降り始めて、合羽を羽織って出前をしたら、
玄関口で洗濯物に埋没している学生の女の子がいた。
「……毎度」
と声をかけると、顔を真っ赤にして
「お母さん!」と家の奥に助けを求めた。
なんだか申し訳ない気分になる。

若い頃は異常に声が高かったので、よく女の人と間違えられた。
「毎度○○です!」
と声をかけたら、中年の男性がいそいそと出てきて、
「あれ?お姉ちゃんは?」
とキョロキョロし始めた。
「僕ひとりですけど」
と言うと、
「なんだ男かよ」と露骨に不愉快そうな顔をされた。
女の人だったらどうするつもりだったのだろう。

五十を超えたくらいの男性で、いきなり説教を始める人が何人かいた。
「いい歳してバイトかよ、早く店を持て」
とか、
「夢があるってのはいいな、それに引き替えうちの若いのは……」
とか。
初老の男性は若い男を見ると何かを言いたくなるらしい。

他にも、いろいろあって、それを片っ端から日記につけているのだけど、
もうずいぶん前のことなので、時効かなと思って書いてみました。
デリバリーの仕事の人で、お客さんのことをネットでさらすと、
いろいろヤバイと思いますので、さらすなら何年か時間を置くべきだと思います。

P1_2

P2もともと猟犬ですから、どんなに小さくても心はハンターなのかもしれない。P3

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P5_2

P6

P7_2

P8



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