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2013年8月 8日 (木)

歴史ドラマ

歴史ドラマというのは難しい。

今年の大河ドラマは、自分もずっと観ているのだけど、
主人公が新島八重という知名度の低い人のせいか、今一つ盛り上がらない。
良いところはいっぱいあるのだ。奥田瑛二の佐久間象山には目を引き付けられたし、
意外なことに、小泉孝太郎の徳川慶喜がものすごくはまっていた。

歴史再現ドラマとしては、自分は結構楽しんで観ているのだ。
けれど、それが視聴率と結びつかないのは、やはりドラマがエンターテイメントだからで、
それこそ「二倍返しだ!」(半沢直樹)くらいのハッタリは必要なのかもしれない。

リアルとエンターテイメントのどちらが上かと聞かれれば、
どうしてもエンターテイメントが上になる。
リアリティというのは歴史ドラマの味付けでしかなくて、
大多数の視聴者にとっては、それが正しい歴史どうかというのは大して問題ではない。

大衆時代小説のはしりで、直木三十五の「南国太平記」というのがある。
青空文庫で無料で読めてしまうくらい、昔の作品なのだけど、
題材は薩摩藩の「お由羅騒動」で、島津家の跡目相続をめぐる痛快時代劇であり、
当時はベストセラーになるくらいもてはやされた。

ところが、これに歴史家の三田村鳶魚が噛みついた。

作品そのものが三田村の研究を下敷きにしていたし、歴史的な記述も間違いだらけだった。
まず、益満休之助が若侍として登場するけれど、
この人は「お由羅騒動」の時点ではまだ子供だったりする。

益満休之助は幕末慶応三年の薩摩藩邸焼き討ち事件の当事者の一人であり、
のちに勝海舟によって牢屋から救い出されて、江戸城無血開城の折、活躍することになる。
益満がいなければ江戸は戦火に焼かれていたかもしれず、
そういう意味では、江戸の人達にはよく知られた人物だったのだろう。

そういう人が、何食わぬ顔で「お由羅騒動」に出てきているのだから、
そりゃまあ、歴史家だったら真っ赤になって怒るだろう。僕だって怒る。

けれど「南国太平記」は直木三十五の代表作であり、都合10回も映画化されている。
さんざん噛みついた三田村さんには申し訳ないけど、この喧嘩の勝者は直木三十五だ。

じゃあ、歴史ドラマにリアリティなんて必要ないのかと言うと、そうでもない。

三田村鳶魚が直木三十五にさんざん噛みついたおかげで、
後の世代の歴史小説家は史実にできるだけ忠実に作品を描き上げるようになった。
司馬遼太郎しかり、海音寺潮五郎しかりである。

特に司馬遼太郎のバランス感覚は秀逸で、歴史的事実に取材しながらも、
エンターテイメントとして優れた作品を数多く残している。
ただ、あんまり見事なので、その創作部分が歴史的事実と勘違いされることも多い。

この流れが究極まで突き詰められて、創作部分が限りなく少なくなると、
吉村昭の歴史小説になる。
この作家の場合、その創作部分でさえ歴史的事実の範疇を大きく逸脱しない。
そして、事実を事実としてえぐり出すことの凄みが、この人の最大の特徴となる。

「関東大震災」の被服廟跡での惨劇のシーンは、小説なのに僕のトラウマになってるし、
「戦艦武蔵」の撃沈シーンは、タイタニックよりも数倍怖い。
そして、そういうリアリティが積み重ねられているから、
「冬の鷹」の前野良沢の晩年は、涙なしには読み進めることが出来ない。

ただ、若い頃の自分はそういう事実の重みをあまり理解していなかったので、
なんでこの人の作品は、西郷隆盛とか坂本竜馬とかが活躍しないのだろうと、
ちょっと不満に思っていた。ダメな人である。

歴史ドラマで史実をとことんまで極めてしまうとどうなるのか。
その極限のドラマというと、

「天皇の世紀」

がある。
なにしろ、僕はこのドラマをCSで十年前に録画して、
最近まで見通すことが出来なかった。それくらい、徹底した作品である。
あんまりマニアックすぎるので、たぶん原作を読むか日本史に精通していないと、
何が起こっているのかさっぱり理解できない。

原作は大仏次郎である。おさらぎ、である。
横浜の港の見える丘公園に大仏次郎記念館があるけれど、
自分がその前で写真を撮っていたら、カップルが目の前を歩いていて、

「だいぶつ次郎記念館だって」

と笑いながら通り過ぎて行った。恐ろしいけど本当の話。

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で、「天皇の世紀」なのだけど、
登場人物に全体を通しての主人公というのが設定されておらず、

鳥居耀蔵(伊藤雄之助!)
長野主膳(天地茂!)
島津久光(佐藤慶!)
川路聖謨(木村功!)
阿部正弘(田村高廣!)
吉田東洋(志村喬!)
武市半兵太(細川俊之!)
橋本左内(田村正和!?)

など、鼻血が出そうな豪華なキャスティングがされている。
これで歴史に忠実な再現ドラマをやろうというのだから、
いい時代だったなと思う。

ただ、これをお茶の間で気楽に観ようというのはちょっと大変で、
よっぽどの歴史グルメじゃないと厳しいのではないか。

丹波哲郎の田中河内介とか、ネットで調べて初めて「面白い話じゃん」と納得した。

僕はドラマであっても史実に忠実なものが好きだけれど、
そこにあんまりこだわると、視聴者には受け入れてもらえないのかもしれない。

司馬遼太郎のようなバランス感覚というのは、本当に奇跡的なものなのだ。

……なんかすげーコラムっぽいコラムになってしまった。

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