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2015年11月10日 (火)

ラビスラズリ

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青い絵の具のお話。

いきなりだけど、昔は青い絵の具はとんでもない高級品だった。
21世紀に生きていると、なかなか実感しにくいのだけど、
大昔の一般庶民は、青といえば菜っ葉の緑のことで、
日常生活の中で青い色とお目にかかることは、めったになかった。

空の青と海の青……すぐに思いつくのはそれくらい。
あとは花の色かな。

魚の青というのもある。
水族館に行くと、魚の青い色にとても驚かされる。
マグロのような大衆魚ですら、水の中では両サイドが青く輝いている。

デパートのペットショップで熱帯魚のディスカスだったかな、
青い色がとてもきれいで、しばらく見惚れた。
あの青い色を紙の上に表現できたら、楽しいだろうなと、
そんなことをずっと考えていた。
(池袋のロフトの屋上のとこにあった。昔はよく屋上に「うどん」を食べに行ってた)

あと、富士山なんかの青い色もいい。空の色なんだろうけど、
山に対して人が信仰心を抱くのは、あの崇高な色彩の力によるものかもしれない。

でも、そんな青い色を二次元の紙の上に残そうとすると、
昔の人はとても残念な気持ちを味わうことになった。
自然界に青い物質というのは、ほとんど存在していないのだ。

古代から青い絵の具の材料として用いられたのは、ラビスラズリという宝石である。
これを砕いて膠や何かで紙の上に固定させる。
宝石だから、とても高い。金塊と同じ値段で取引されていた。

一般人が趣味で絵を描くのに使うには、あまりにも「べらぼう」である。

画家にしたってそうである。
昔のヨーロッパの絵は、赤とか黄色、緑で描かれていることが多い。
青は高いからめったに使わない。
ルネッサンス前後のヨーロッパの絵を美術館に見に行くと、
この青の希薄な世界に「時代の古さ」を感じて、
なんだか古代の洞窟にでも迷い込んだような気分にさせられる。

それでも、青い色をふんだんに使った画家もいる。
例えば、フェルメールである。
日本ではずいぶん人気のある画家なので、知っている人はたくさんいるはず。
17世紀オランダの人。
名前は知らなくても、「真珠の耳飾りの少女」の絵は見てるはず。

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絵ももちろん素晴らしいけれど、世界に三十数点しか絵が残っていないため、
価値が「べらぼう」に跳ね上がっていることでも有名。
そして、そのわりに一年に一回くらいは都内の美術館で展示されるという、
客引きパンダ的な存在としても、超有名。

自分もいくつかの美術館に足を運んで鑑賞したけれど、
フェルメールの絵の前はいつも黒山の人だかりで、
せっかくチケット代を奮発して見に行ったのに、あんまり「見た」という気にならない。
でも、光の使い方と画面の奥行の素晴らしさは、やっぱりすごいと唸らさせられる。

このフェルメールさんは、比較的裕福な家の出身だったようで、
金塊と同じほどの価値のあったラビスラズリをふんだんに使って青い色の絵を残している。
「真珠の耳飾りの少女」は同名の映画もあるけれど、
その中で画家が石を砕いて自分で絵具を作るシーンがある。
何しろ、宝石ほどの価値もある画材だから、フェルメールさんも「ここぞ」という時しか、
青い色は使わない。
古い絵画の茶色の世界(赤と黄色がメインの世界)に、
青い色彩が鮮やかに、とても効果的に使われているから、
現代絵画よりもよっぽど青い色が印象に残る。
これもたぶん、世界中の愛好家がフェルメールが大好きな理由のひとつだと思う。
「真珠の耳飾りの少女」が青いターバンじゃなくて、緑や黄色だったら、
その価値はたぶん半減していたことだろう。

金持ちしか使えない青色が、広く一般の画家でも使えるようになったのは、
18世紀にドイツでプルシャンブルーが化学的に合成されてからである。
これは、絵画の世界では革命的な出来事だった。

昔、スペイン絵画の展示会があって、自分はゴヤを目当てに見に行ったのだけど、
エルミタージュ美術館だったかな、収蔵品を年代順に展示してあったのだけど、
ある時期から、絵の雰囲気が劇的に明るくなったので、とてもびっくりした。
画家が青い色を自由に使えるようになって、絵に色彩の広がりが生まれたのだ。

同じことは、少し時間をおいて日本でも起こっていた。

日本はラヒスラズリが産出しないそうで、絵の中の青はたいてい緑である。
浮世絵なんかは、基本的に庶民のものだから、
江戸初期の版画は、赤と黄色と緑色の世界である。
この状況は、あの葛飾北斎の時代まで続く。

北斎はとても長生きをした人で、代表作の「富岳三十六景」などは七十過ぎで描いている。
その、富岳シリーズを描く少し前に、西洋から青い絵の具が輸入されてきた。
絵描きにとってこんな目出度い話はないので、北斎は青を使った。
それこそ、狂ったように青い色を使いまくった。
ベルリンで作られた青い画材だったので「べろ藍」と言ったらしい。
富岳三十六景の「神奈川沖浪裏」なんかは、青い色がなかったらたぶん生まれなかった。

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青色発光ダイオードの発明が、ダイオードによる色彩の大革命だったように、
青一色が加わることで色彩の世界は格段にひろがっていく。
北斎はこのあともいくつも浮世絵を出しているけれど、
色彩がどんどん派手になっていって、僕はかえって気持ち悪く感じる。
江戸の昔の人には新鮮な驚きだったのだろうけれど。

青い色は、だから使うのがずいぶん難しい色だと思う。
色彩が派手になるほど、使い勝手を誤ると絵がとてつもなく混乱する。
むしろ青い色をぎりぎりまで使わないで、フェルメールのように一点豪華主義で使う方が、
見栄えのいい絵になるような気がする。なにしろ、自然界にはほとんど存在していない
希少な色彩なのだ。

で、僕も自分の絵の彩度を落として古い感じにしてみました。

フランケンシュタインが、突然描きたくなったのです。
で、あれこれいじっているうちにSM調になってしまった。そんな趣味はないけど。
彩度を落とす前の元の絵はこちらです。
なんだかんだで、僕は青い色が大好きです。

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