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2017年3月 4日 (土)

雨を描く

昔、ベトナムで取材させていただいたとき、
ホーチミンの駅だったかな、突然のスコールに駅舎の中に逃げ込んだことがあった。
南国のスコールだからその勢いたるやものすごい。大地を叩く雨音が重低音で響いてくる。

一人でボーッと立っていたら青年さんが日本語で話しかけてきた。
僕はどうやら一発で日本人とわかる容姿をしているらしく、
担当さんと歩いていても、物売りの標的になるのはたいてい僕の方で、
そのことでいささかうんざりしている時でもあった。

でも青年さんは純粋に自分の習得した日本語を日本人相手に使ってみたいようで、
話した内容はもう忘れてしまったのだけど、その熱心さには好感を抱いた。

もう二十年も前の話なんだな。

雨といっても日本人のイメージする雨と海外の人のイメージする雨は異なる。
日本人が何気なく描いた雨の絵が、外国人にはひどく斬新に見えることもあるらしい。
有名なところではゴッホが安藤広重の版画「大はしあたけの夕立」に感激して、
自分も油絵で模写をした、なんてのがある。
どのポイントに感激したのかはわからないのだけど、絵の構図を大胆に傾け、
降りしきる雨の強さを強調したところなんかは、かなり斬新だと思う。

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「江戸名所百景」の頃の安藤広重は北斎の影響なのか、構図の大胆さに拍車がかかって、
梅の枝を思いっきり手前に配置してみたり、
手前の物体と奥の風景の対比で奥行きを出したり、
カット割りがどんどん現代的になっている。
ゴッホはそこに面白さを感じたのかもしれない。

でもなぜ「大はしあたけの夕立」なのか。
「線によって降りしきる雨を描写したのが、西洋人にはコロンブスの卵だった」
という意見を何かの本で読んだ記憶がある。
たしかに、降りしきる雨を「線」として認識するのは、おかしいといえばおかしい。
そんな物体は空から降ってきていない。でも、雨粒が移動する時間を描写すれば、
それは線になるってのは、日本人の自分には感覚的によくわかる。

西洋人はそのようには認識してこなかった。だから西洋絵画の世界では、
降りしきる雨を描写した絵がほとんど存在しない。あっても霧のように朦朧としている。
雨そのものより雨によってぼやける風景のほうにフォーカスが当たっている。

それは西洋人が日本人より感覚的に劣っているという話ではない。
同じ雨を認識するのにも、生まれた国の文化によって違いがあるという話である。

僕は逆に、雨が線ではないというゴッホの認識のほうに意表をつかれ、
しみじみ雨を見つめてしまうのである。
確かに、これは線ではない。でもいざ絵にしようとすれば、線以外には考えられない。
表現というのは、なかなかに困難なものであるなあ、と。

音楽の世界ではベートーヴェンが田園交響曲の第4楽章で雨を表現している。
村祭りの陽気な熱狂の中に、突然の弦の唸り、ティンバニーの細かい振動による雨脚、
弦は悲鳴のような跳躍で雷鳴を表現している。
「田園」は特に好きな曲でもないのだけど、この部分の表現はすごいなと素直に思う。

しとしと降る雨というなら、ブラームスのバイオリンソナタ第1番「雨の歌」。
以前にもこのブログで書いているけれど、雨の日の情感ってあんな感じだよなと、
心象の面で納得させるものがある。友人に聴かせたら納得してくれなかったけど。

ショパンにも「雨だれ」って練習曲があった。これも心象的な雨の日の風景。
穏やかでどこかさみしい感じがする。ピアノはどんどん心の底へと沈降していき、
激しい感情が湧き出しそうになるけれど、それもやさしい雨音にかき消されていく。
いかん、またポエマーになってしまった。

今回「昭和人情食堂」に掲載していただいた漫画の中にも雨のシーンがあり、
雨をどう表現するかで少し悩んだ。
「一本一本線を引くのか?」
それはさすがにめんどくさいなとちょっと躊躇した。
僕は怠け者なのである。作業はできるだけ効率よく単純なのが望ましい。

僕は「コミックスタジオ」というソフトで漫画の仕上げ作業をしているのだけど、
その機能の中に、「自動的に平行線をひく」というのがある。
長さや間隔を調整することで、思い通りの平行線が自動的に引けてしまう。
昔は定規で一本一本引いていた線が、一瞬で引けてしまうのだから、
文明の進歩というのはありがたいもんだよなあとしみじみ思う。

数値レベルを調整すると、間隔はランダムに変わる。
「これを絶妙に調整すれば、雨みたいになるんじゃないかな」
と考えた自分は、ちょっといじくってみた。果たして雨のようなラインが出てきた。

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今回描写した雨は、この機能を利用して仕上げていたりします。
だから仕上げるのはわりと一瞬だったりするのです。
言わなきゃ「一本一本線を引いて、漫画家さんは大変だな」と思ってもらえそうだけど、
実はそんなこともなかったりします。

もちろん、パソコンのランダムな雨の線だけでは情感が出ないので、
線を間引いたり重ねたりして調整はしています。
漫画を描く方で「コミックスタジオ」を利用している方のご参考までに。

今回は雨のシーンがそれほど多くなかったので、割と安易な方法を使ったのだけど、
本格的に雨を描写するとなると、自分の絵のボキャブラリーはまだまだ不足気味だ。
この頃東京は雨の日が多いのだけど、その中に傘を差してとぼとぼ歩いているとき、
「これをどうやって表現するかな」
とちょっと考えたりします。

一口に雨といっても、その描き方には無限の広がりがあるのだ。

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