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« 七月は文月 本の陰干しの季節だ! | トップページ | 新聞小説のヒロイン »

2017年7月 6日 (木)

エイトフォー

久しぶりに床屋に行った。若いころは無精に髪を伸ばすのが
「反体制的」
みたいな70年代のノリを引きずっていたので、割とほったらかしだったのだけど、
年を取ると「爺さんの長髪」というのは、よっぽどの覚悟がなくてはできない。
「反体制」のフラッグが「社会不適合者」の烙印になりかねない。
オッサンは東京の片隅でひっそりと漫画を描く「小市民」なのである。

「この街には落ち武者ヘアーの漫画描きがいる!」
と、妙なUMA扱いされて、当局に要注意人物扱いされたくはない。

床屋の話は以前にもこのブログで書いたのだけど、
近所の床屋が「お客さん漫画家さんなんですか」とやたら根掘り葉掘り聞いてくるので、
ここ二十年ほどは隣り町の無口な床屋さんを贔屓にしている。

自分の頭頂部の栄枯盛衰を知り抜いているのは、家族とこの親父さんくらいのもんだ。

平日なのでお客はおらず、店主はお客の椅子でテレビを観ておられた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」

この頃は無口は無口なりに時事的な会話程度はするので、天候についてあれこれ話した。
台風は僕の知らない間に関東を通り抜けていたらしい。
「今年は雨が少ないので、もう少しいっぱい降らしてもらいたかったですけどね」
なるほど、店のテレビ(床屋式の椅子からは見えない)でも、関東の水がめがピンチで、
荒川水系で節水が始まっているとニュースキャスターの声がしている。
「荒川は埼玉県を通っている」と、どうでもいい予備知識まで披露している。
ダムの貯水率は平年の20%程度らしい。

「今年も去年のキャベツのように、野菜が値上がりするかもしれませんね」
と、適当な感想をのべると、
「そうですねぇ」
と、あちらも適当な相槌を返す。

テレビは節水についての蘊蓄をしゃべり続けている。
歯磨きはコップに水をためて、蛇口の水は流しっぱなしにするな、
髪を洗う時もこまめにシャワーを止めろ、
それだけで一日に2リットルのペットボトル十本分くらいは節約できるらしい。

うちは共栄住宅なので、水を流しっぱなしにするのは配管の中の水を入れ替えるって、
そういう意味もあるんだけどなぁと、ぼんやり考える。
以前部屋の外で水道業者が会話していたのを聞いてしまったのだけど、
「外側のパイプの入れ替え工事をして、それで水は奇麗になりますか」
「ダメだね。個々の部屋への配管は古いままだから、ずいぶん汚いことになっているよ」
と、物騒なことを話題にしていた。
以来、水道の水を口に入れるときは、ある程度流しっぱなしにしている。

基本的にそれほど神経質な人間ではないので、ネットで、
「中国のウナギ業者は自分のところのウナギは食べない」
って話題を読んだ時も、そんなもんかなと納得した。
なんか、始末に困った人間の死体を餌の代わりに養殖槽に放り込んでるとか、
そういう風聞なのだけど、
「危険な薬物を投入されるよりはまだマシ」
「死体が怖くてシャコが食えるか」
とネット人が笑い飛ばしていて、まあそりゃそうだ、生々流転ってくらいで、
自分が普段口にしている有機物にも、かつては人様を構成していた物質もあろうし、
だいたい肉や魚はまんま生き物なのだ。

そんなどうでもいいことをあれこれ考えているうちに床屋は仕事を終えていた。
本当にどうでもいいことだ。
僕は頭をいじられていると面白いアイデアを思いつくことが多いので、
風呂で髪を洗っているときとか、床屋でアイデアを仕入れることがある。
「外国語で話すと人格が変わるって面白いよな」
ってこの店で髪を刈られている間に思いついて、早くメモしなくてはと焦ったこともある。
でもこの頃は割と平凡に、くだらないことばかり考えている。

レジで会計を済ませようとすると、小ぶりなゴミ箱が置いてあった。
「商店街の催しなんですよ」
とクジを引くように勧められた。五百円で一回。僕は七回引くことになる。
五等が五枚、三等が二枚当たった。
「申し訳ない、二枚も当たってしまった」
「景品交換所でお菓子なんかと交換できますよ」
とのことだった。

毎年やっているので、これまでにも干物の詰め合わせとか、割とよく当てている。
今年は何だろうと交換所の文房具屋に向かう。

何も買わないのも何なので、漫画用のインクとピグマを買う。まさに思うつぼ。

三等の景品は店の隅の箱の中から選べるとの話だったが、目ぼしいものはあまりなかった。
むしろ四等の箱の中のほうが、お菓子やらグッズやらがあって賑やかな感じがした。
三等は洗剤とかティッシュの箱とか、制汗剤だったりした。「8×4」だ。
「なんで八かける四なのだろう」と今調べてみたのだけど、
もともとはドイツの商品で、有効成分に
「Hexachlordihydroxydiphenylmethan」
が使われているらしい。これが三十二文字。だから八かける四でエイトフォー。
「ちなみに現在はこの成分は使われていない」となっている。

語呂が面白いから名前だけ意味不明のまま残っているってことか。どうでもいいけど、
商品名の来歴だけまとめたブログがあったら、そこそこ人気になるんじゃないかと思った。

景品を目の前にしばらく考えてから、除菌剤と洗剤を取り出して、
「これいただきます」
とお店の人に提示した。
「そこに袋があるんですよ」と、店主がレジ袋に詰めてくれた。

面白い商品名というと、サランラップがある。
透明な樹脂を発明した二人組の研究者がいて、それぞれの奥さんが「サラとアン」だった。
だから愛妻家の二人はのろけ半分に「サラ・アンド・アン樹脂」と名前を付けた。
それが詰まって、「サランラップ」になったのだけど、
「ン」一文字に短縮されたアンさんがなんか不憫だなと、思い出すたびに考える。

夕方の空は夏前なのでずいぶん明るいのだけど、少し曇っていて、時々雨粒が落ちる。
買い物の奥様方が自転車で行き過ぎる。半袖にコットンパンツで、尻の形が頭に残る。
漫画描きの名言に
「若者は胸にこだわるが、年を取ると尻の良さに目覚める」というのがあるのだけど、
人体のデッサンをしていると、尻のデッサンが案外難しいのだなと気が付く。

尻とはなんであるか。

股関節から足が分岐し、その付け根の形状が尻になる。
ダビンチのように人体の構成を解剖学的に考えると、そこには一切の無駄はなく、
筋肉の配置の妙があの形を作り出していることになる。それなのに、
なんで人間は尻に変なロマンを抱いたりするのだろうか。
一説には、サルは発情期に交尾を促進するために、メスの尻が赤くなって、
それが煽情的にオスを駆り立てるというのがある。
太古の人間にもそういう時期があって、女性の尻の形状に種の保存への欲望が、
フツフツと湧き上がるのかもしれない。

桃の果実や半分に切ったリンゴの断面にも、ロマンを感じる男はいる。

そういったロマンを突き詰めていくと、尻のラインには生命の根源が感じられるようで、
その核心をなんとかつかみ取ってみたいものだなと思うけれど、
客観的に考えてただのエロおやじ以外の何物でもないので、困ったもんだ。
ものすごく哲学的な話題だし、それに人生をかけた芸術家もいるのだけど、
自分には万難を排して尻に人生をかける男気はないなと、
またしてもくだらないことを考えながら、夕方の商店街をブラブラと歩いた。

特に書く話題を用意しないでダラダラ文章を書くと、本当に意味のない文章になるという、
見本みたなものだな。

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