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2017年9月

2017年9月27日 (水)

対話篇5-お絵描きー


弟子「今日こそ師匠に絵の描き方を教えてもらおう」
師匠「♪」
弟子「師匠、お仕事中申し訳ありませんが、私に絵の描き方を教えてください」
師匠「フンフンフン♪
弟子「ヘッドホンしてるから聞こえないのかな、ねえ師匠?」

師匠「お絵描きは~楽しいなぁ~」
弟子「師匠!」
師匠「わっ!びっくりした、おどかすんじゃねぇよ」
弟子「絵の描き方を教えてください」

師匠「絵なんて頭に浮かんだものをチョイチョイと紙に描くだけだよ」
弟子「そんな簡単なものじゃないでしょ。何かあるんでしょ?コツみたいなの」
師匠「そりゃあるけど、口で説明するのは難しいよ」
弟子「そこをなんとか」
師匠「だいたい、職人の技術ってのは見て盗むものだ」
弟子「だって、見てもわかんないんだもん」

師匠「この頃の若者は自分でどうにかしようという気骨が足りない」
弟子「身近に描いてる人がいれば聞くのが当然でしょ?、早く教えてください」
師匠「だいたい、僕のアシスタント先の先生だって何も教えてくれなかったよ」
弟子「そうなんですか?」
師匠「描いてるところは絶対見せないようにしてた。だから僕のは全部独学なんだよ」

弟子「独学でいいから教えてください」
師匠「あー」
弟子「是非」
師匠「頭に浮かんだ絵を紙に描きうつす」
弟子「だから、それはもうわかりましたから」

師匠「実はここ数日、ずっと頭の中にイメージがもやもやしてるんだ」
弟子「ほう」
師匠「なんかこう、クルクルってね、らせんの中に女の子がいるの」
弟子「抽象的ですね」
師匠「いろいろ紙に描いてみるんだけど、なんか違うんだよね」

弟子「どんな女の子なんです?」
師匠「かわいい女の子」
弟子「なんじゃそりゃ」
師匠「女の子のかわいさを引き出すからくりがらせんなんだよ」
弟子「はあ、そのらせんてのはいったい何なんです?」

師匠「くるくるっとね」
弟子「はい」
師匠「女の子のまわりを回転してるの」
弟子「全然理解できない」
師匠「らせんの中に女の子がいたら、スゲーかわいいじゃん」
弟子「……その女の子はらせんの中で何をしてるんです?」
師匠「飛んでる」
弟子「はい?」
師匠「こう、膝を折り曲げてね、ふわふわ飛んでるの」
弟子「ああ、うる星やつらのラムちゃんみたいな飛び方ですね」
師匠「それだ」

弟子「あ、師匠が何か絵を描き始めた」
師匠「つまり鬼の娘が飛んでいて、まわりに雷が渦を巻いてると……」
弟子「早いな。もう描けちゃった」
師匠「おかげで具体的なイメージが固まったから、頭の中の映像をなぞったんだ」
Photo

弟子「……ラムちゃんのまんまですね」
師匠「さすがに気が引けたから、つのは一本にしといた」
弟子「トラ皮のビキニまで同じだ」
師匠「いや、それビキニちゃいますねん。体毛ですねん」
弟子「は?」
師匠「胸を隠してるのは胸毛です」
弟子「おいおい」
師匠「パンツの部分はものすごく濃い体毛です」
弟子「それじゃあこの娘は素っ裸じゃないですか」
師匠「オールヌード」
弟子「ダメじゃん」

師匠「頭の中にフィギュアみたいに具体的な形が出来てたから、それをなぞったんだ」
弟子「へえ、なんかすごいですね」
師匠「できる人は十代でできてしまう。才能がないと僕みたいに何十年も苦労する」
弟子「才能……ですか」
師匠「あと運かな。身近に絵が描ける人がいれば、ずいぶん違ったと思うけど」

弟子「やっぱりコツがあるんじゃないですか」
師匠「頭の中のイメージを、撫でまわせるくらいまで明確にするのがコツなんだ」
弟子「……なんかいやらしいですね」
師匠「何がいやらしいもんか。目を描くときに瞼と眼球を立体として意識するんだよ」
弟子「?」
師匠「立体物をどうやってペンでえぐり出すか、そのやり方がその作家の作風なのだ」
Photo_2

弟子「筆ペンとピグマであっという間にペン入れが終わってしまった」
師匠「下描きで骨格の位置まで決まってるから、ペン入れは早いよ」
弟子「紙をクルクル回転させてました」
師匠「基本、反時計回りに丸で囲んでるだけだからね。気分は筆の彫刻家」
弟子「めんどくさそうですね」
師匠「イラストだから几帳面に回転させたけど、手抜きで回転させない描き方もある」
弟子「漫画だとそっちの描き方が多くなるんですね」
師匠「いや、まあ、漫画が手抜きってわけじゃないんだけどね」
Photo_5

弟子「色まで入った」
師匠「色塗りは勉強が足りないのでさすがに時間がかかる。主に配色で悩む」
弟子「いろんなバージョンを試してましたね」
師匠「一度塗って、時間を置いてから修正するんだ。デジタルなので簡単に直せる」
弟子「パソコンさまさまっすね」
Photo_6

師匠「ってことで、完成しました」
弟子「おお」
師匠「どうよ!」
弟子「……やっぱりラムちゃんっすね」
師匠「おいおい」
弟子「高橋留美子先生にあやまれ」
師匠「ごめんなさい」

弟子「でも師匠がやりたかったことは、なんとなくわかりましたよ」
師匠「そうかい」
弟子「このらせんの雷は師匠の手ですね」
師匠「え?」
弟子「女の子をらせんでギュッと握ってるんですよ」
師匠「……」
弟子「いやらしいなぁ、師匠は」
師匠「……」
弟子「女の子の立体感がスケベなのも、師匠の心の手が触りまくってるからです」
師匠「おい」
弟子「はい?
師匠「おまえ、破門な」
弟子「え!」

(続く)

2017年9月23日 (土)

対話篇4ープラモデルー

対話篇8

師匠「♪」
弟子「師匠がロボットのプラモデルを作っている」
師匠「たいよーのきばー♪」
弟子「ノリノリである」
師匠「だーぐらーむ♪」
Img_0101

弟子「五十近い爺さんが子供みたいで見てられない」
師匠「……うるさいなぁ」
弟子「なんなんですか、それ」
師匠「太陽の牙ダグラムだよ。八十年代初頭にテレビでやってたサンライズアニメ」
弟子「さんらいず?」
師匠「アニメ会社ね。ガンダムでリアルロボットアニメのブームに火をつけたとこ」

弟子「体はガンダムみたいなのに、頭がヘリコプターの操縦席みたいだ」
師匠「メカデザイナーは大河原邦男さんでね。当時の子供はみんなお世話になってる」
弟子「たとえば?」
師匠「タイムボカンシリーズ。特にヤッターマンのメカは有名」
弟子「あのすっとぼけた犬のロボットですか!」
師匠「やったーワン!」

弟子「へえーすごい人なんですね」
師匠「元々デザイナーさんだったって聞いたことがある。デザインに奥行きがあるんだ」
弟子「奥行き?」
師匠「裏側まで見通せるっていうか、立体化しやすいデザインなんだよ」
弟子「つまり?」
師匠「おもちゃ会社が商品にしやすいデザインってこと」
弟子「なるほど」
師匠「ガンダムA誌で最新の家庭用旋盤を嬉々としていじってた姿は微笑ましかった」
弟子「工芸的なデザインセンスが要求されるんですね」
師匠「そう」

弟子「ガンダムもこの方がデザインしてるんですか」
師匠「基本のラフが冨野さんで配色とアニメ用の調整が安彦先生だったはず」
弟子「色は違うんだ」
師匠「おもちゃ会社が白いロボットじゃ売れないって企画会議で注文をつけてね」
弟子「バンダイ?」
師匠「いや、当時権利を握ってたのはクローバー。で、安彦さんがその場で色を決めた」
弟子「あの青やら赤の配色ってそんな行き当たりばったりで決まったんだ」
師匠「トリコロールカラーは子供に受けるって言われてたんだ。ドラえもんとか」
弟子「ああ、ガンダムとドラえもんはなんか似てる気がする」
師匠「色は同じだよね」

弟子「大河原さんがデザインした部分は案外少ない?」
師匠「いやいや、あの造形は素人じゃできない。どの角度で見てもガンダムってわかる」
弟子「ほう」
師匠「足とか、大河原節だよね。ふくらはぎがものすごくセクシー」
弟子「ロボットにセクシーさはいらんでしょ」
師匠「それまでのロボットのデザインにはなかった部分だよ。ここ重要」

弟子「で、その人がデザインしたのがその……ダグラム?」
師匠「キャノビーが戦闘ヘリっぽいのが革新的だよね」
弟子「子供に受けたんでしょうか」
師匠「どちらかというとガンプラブームで模型に目覚めた層がターゲットかな」
弟子「バンダイ?」
師匠「タカラトミーだね。バンダイとはライバル関係にある」
弟子「売れたんですか」
師匠「売れたねぇ。おかげで本編のアニメも放送が延長されたくらい」

弟子「ほう」
師匠「外国のカメラマンの写真集を見ていたらソルティックが映ってて笑った」
弟子「ソルティック?」
師匠「コンバットアーマーね。ガンダムで言えばザクみたいな敵方のロボット」
弟子「次々と訳の分からん用語が飛び出してくる……」
師匠「ダグラムはストーリーが政府VS反政府ゲリラだったからメカがリアル志向なの」
弟子「ああ、ベトナム戦争っぽい感じなんだ」
師匠「高橋良範のリアル戦争ものはボトムズで頂点を迎える」
弟子「もう何が何だかわからない」

師匠「ゲリラ側が最新の兵器を手に入れて大活躍♪」
弟子「ものすごく物騒な話ですね」
師匠「一途なヒロインとのラブ要素もあるよ」
弟子「なんかものすごく頬がこけてるんですけど」
師匠「リアル志向」
弟子「わざと萌え要素を排除しているようにしか見えない」
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師匠「そのダグラムのプラモデルを知人からいただいてね、半年くらい放置してたんだ」
弟子「なぜダグラム?」
師匠「さあ……出来がいいから作ってみろ、みたいな話じゃなかったかな」
弟子「実際、素組みのプラモデルとは思えない完成度ですね」
師匠「作ってて思い出したよ。僕、八十年代にもダグラムのプラモデルを作ってる」
弟子「なんと」
師匠「キャノビーとか必死に色を塗ってた記憶がよみがえってきた」
弟子「……」
師匠「関節の可動部分にポリキャップを使った最初期の模型じゃなかったかな」
弟子「……忘れてたって事実に驚きですよ」

師匠「あの当時はいろいろ作ってるからね。ダンバインも最初期のを買ってる」
弟子「すごいんですか」
師匠「頭のデザインが不評ですぐに修正してるんだ。その修正前の不細工なやつ」
弟子「今ならそっちの方が価値がありそうですね」
師匠「パテで修正してアニメのデザインに近づけたんだ」
弟子「もったいない」

師匠「八十年代初頭の男の子はみんなプラモデルに手を染めたもんだよ」
弟子「……そうかなぁ。師匠のオタク趣味のような気がするけど」
師匠「部屋がシンナー臭くなって父親に怒られた」
弟子「そりゃそうだ」
師匠「一日働いて家に帰ってきてシンナー臭いのは耐えられないと」
弟子「そっちですか。シンナーは不良の代名詞だからやめろって話かと」
師匠「アンパンね」
弟子「アンパン?」
師匠「シンナーの瓶をパン屋の袋に入れて吸うの。で、注意されたらアンパンですと」
弟子「いろいろ無駄な知識が飛び出してくる」

師匠「でもダグラムの頃には水性ホビーカラーが普及し始めてたから臭くはなかった」
弟子「師匠がプラモデル好きとは知らなかった」
師匠「いや、今回ダグラムを作ったのが三十五年ぶりくらい」
弟子「あらら」
師匠「資料用のボーイング747とか作ったことがあるけど、模型熱は完全に冷めてた」

弟子「で、作ってみた感想は?」
師匠「ふるえたね」
弟子「魂が?」
師匠「指先が」
弟子「じいさんですか」

師匠「普段ペンを使うくらいしか細かい作業をしないから、自分の耄碌ぶりにびびった」
弟子「米粒みたいな部品が多いですもんね」
師匠「でも途中からスイスイ組み立てられるようになった。老化防止にいいのかも」
弟子「どんどん話が老人臭くなってくる」

師匠「いやいや、マジで指先がプルプル震えてたのが最後の方は完全になくなってたの」
弟子「ふーん」
師匠「それに、完成したときの充実感がものすごい」
弟子「さっきからニャニヤいじりまくってて気持ち悪いんですけど」
師匠「だって、素組みでここまで完成度が高いとは思ってなかったからさ」
弟子「確かに良く出来てますね」
師匠「色を塗らなくてもここまでのものが出来てしまう、この技術はすごいと思うよ」
弟子「老人ホームで模型を作る爺さんがはびこる未来が見えるようだ」
師匠「本当にそんな時代が来るかもね」


2017年9月16日 (土)

対話篇3 ジンクス

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師匠「吹雪まんじゅうを見るとシーボーズを連想するよね」
弟子「……なんですか、シーボーズって」
師匠「ウルトラマンに出てきた怪獣だよ。怪獣墓場から落ちてきた幽霊怪獣」
弟子「知りませんよ。そんなマニアックなネタ」

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師匠「僕のリアルタイムは新マンからなんだけどね」
弟子「新マン?」
師匠「帰ってきたウルトラマンだよ。団次郎の」
弟子「団次郎?」
師匠「俳優だよ。MG5のCMで有名な」
弟子「もう何がなんだかわからない」

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師匠「ウルトラマンは黒部進ね」
弟子「俳優さんの名前で言われてもピンときませんよ。ハヤタ隊員ですね?」
師匠「そうそう、ハヤタ隊員。吉本多香美のお父さんね」
弟子「だから、混乱するからやめてください」

師匠「ウルトラマンも今見ると古いよね。リマスターはされているけど」
弟子「半世紀前の昭和全開の作品ですからね」
師匠「観てると子供の頃の風景を思い出して懐かしいんだ」
弟子「例えば?」
師匠「子供が野球帽かぶって半ズボンで白のハイソックス」
弟子「ああ、半ズボン。今どきの子供は履きませんね」
師匠「クラスメートの半キンをどれだけ見せられたことか……」
弟子「昭和ですね」

師匠「走ってる車も古いし、背広がネルでやけに厚ぼったかったり」
弟子「師匠が生まれたころはそういうのが当たり前だったんですよね」
師匠「うん。町中にミヤコ蝶々みたいなおばあちゃんがいっぱいいたりね」
弟子「ミヤコ蝶々ってどんな蝶々ですか」
師匠「……関西に生息する夫婦善哉な蝶々だよ」

師匠「今回はジンクスのお話」
弟子「風邪が吹くと桶屋が儲かるみたいな」
師匠「それはジンクスとちゃう」
弟子「風が吹くとなんで桶屋がもうかるんですかねぇ」
師匠「……まあいいや、話にのりましょう」

弟子「なんでです?」
師匠「差別用語が入るからあんまりメジャーにならない理由なんだけどさ」
弟子「ほいな」
師匠「風が吹くと埃がまってみんな目をやられる」
弟子「ふむ」
師匠「盲人が増える」
弟子「強引ですね」
師匠「めくらが増えるとみんな三味線を始める」
弟子「なんで?」
師匠「昔はめくらの商売と言えば金貸しか按摩か三味線のお師匠さんだったんだよ」

弟子「で、みんなが三味線をやり始めました」
師匠「三味線が飛ぶように売れて、町から猫がいなくなる」
弟子「皮を剥いで三味線の材料にするんですね」
師匠「猫がいなくなるとネズミが増える」
弟子「なるほど」
師匠「ネズミが増えると桶をかじられるんで、桶の需要が増える」
弟子「……それで桶屋が儲かると」
師匠「そう」
弟子「強引ですね」
師匠「バタフライエフェクトよりは可能性がありそうだけどね」

弟子「で、ジンクスの話」
師匠「ずっと同じGペンのペン先を使い続けてるんだ」
弟子「え?」
師匠「今描いてるのは全部同じペン先で描いてる」
弟子「普通は取り換えるもんなんですか?」
師匠「かわぐちかいじ先生は4ページぐらいで取り換えているって何かで読んだ」
弟子「取り換えないとどうなるんです?」
師匠「インクの線がフニャフニャになる」
弟子「ダメじゃないですか」

師匠「まあ、ジンクスだよね。この作品をこれ一本で描き終えたら絶対いいことがある」
弟子「……単なる思い込みですね」
師匠「それに僕の今の描き方だと、割と古いペン先でも描けちゃうんだよね」
弟子「本人が納得してるなら別に構いませんが」
師匠「で、さっきペン入れしてたら妙にシャープな線が引けちゃったの」
弟子「ついに達人の境地に達しましたか」
師匠「予備用のペンでペン入れしてた。こっちは新しいペン先だったんだよね」
弟子「ああ」
師匠「ジンクス破れたり」

弟子「くだらない。ジンクスなんて科学的根拠に乏しい思い込みですよ」
師匠「まあそうなんだけどね」
弟子「今の時代、ジンクスなんて誰も信じていませんて」
師匠「そうでもない。出版業界には有名なジンクスがある」
弟子「といいますと?」
師匠「出版社がビルを建てると経営が傾く」
弟子「なんじゃそりゃ」

師匠「某大手が新社屋を建てたとき、編集さんが話してた」
弟子「単にヒット作が出なかっただけでしょ」
師匠「実際、出版業界は経営が傾きまくってる」
弟子「それは……」
師匠「出版不況は某社が立派なビルを建てちゃったからだと、個人的に思ってる」
弟子「また師匠の無茶振りが始まった」

師匠「まあ、社員にとっては新社屋はうれしいけど、めんどくさいってのもあってさ」
弟子「引っ越しが大変ですもんね」
師匠「それで愚痴るうちにそんなジンクスが生まれたんじゃないかと思うんだ」
弟子「なんか不評だったみたいですね、某社の新社屋」
師匠「役員室がビルの下の方にあるの」
弟子「?」
師匠「火災があったときにはしご車が届く限界位置なんだってさ」
弟子「ああ、上の階の社員はムッとしますね」
師匠「噂だけどね」

弟子「インフルエンザが流行ると、あっという間に会社中に広まったそうで」
師匠「空調がうまく機能しなかったらしい。後になっていろいろ問題がみつかるんだ」
弟子「ビルだと気軽に窓を開けて換気ってわけにはいきませんからね」
師匠「あと、エレベーターホールがあって、八基くらい稼働してるんだけどさ」
弟子「すごい大手の出版社ですね」
師匠「ボタンを押してもどれが来るかわからない」
弟子「ああ」
師匠「八基全部に注意していないとエレベーターに乗れないというクソ仕様」
弟子「数が多いというのも考え物ですね」

師匠「さすがに今は改善されているけどね」
弟子「で、けっきょく師匠は何が言いたいんですか」
師匠「ジンクスなんてくだらないよねって」
弟子「そこですか」
師匠「さあ、新しいペン先で続きを描くぞ!」

2017年9月 9日 (土)

対話篇2~ボスジャンの思い出~

 1

弟子「肩の調子はいかがですか?」
師匠「だいぶ楽になったよ。心配をかけて申し訳なかったね」
弟子「老人をいたわるのは若者の義務ですから」
師匠「……老人ってほどくたびれちゃいないよ」

弟子「北朝鮮が日米韓に脅しをかけまくってます」
師匠「水爆やらICBMやら、いろいろやらかしてくれてるね」
弟子「師匠も新聞やらテレビやらをよくチェックしておられます」
師匠「肩が痛くて外出できなかったから、なんか見ちゃったね」

弟子「金正恩についてはどのようにお考えで?」
師匠「路上でギターを弾いてる不遇なアーティスト」
弟子「……またわけのわからない例えが飛び出してきた」

師匠「池袋とか歩いてるとたまに遭遇するよね。若いアーティストさん」
弟子「池袋はかつてモンパルナスに例えられたくらい、芸術家の街でしたからね」
師匠「個人的には若い人が頑張ってる姿を見るのは大好きなんだ。応援してしまう」
弟子「ギターの箱を地面に広げて、どこかで聴いたような曲を演奏しております」

師匠「生歌、生ギターはやっぱりググッとくるもんがあるよね」
弟子「それでみんな騙される。別に大した音楽をやってるわけじゃないですよ、あれ」
師匠「……なんだい、いつになく辛辣だね。路上アーティストに恨みでもあるの?」
弟子「思ったことをまんま喋ってるだけですよ。で、なんであれが金正恩なんです?」

師匠「俺の歌を聴け!って、頼まれもしない音楽を押し付けてくる」
弟子「……師匠の方がよっぽど辛辣な気がするんですけど」
師匠「ICBMは俺の魂の叫び~♪」
弟子「なんか歌い始めた」
師匠「水爆はお前たちの鎮魂歌~♪」
弟子「しかもけっこういい声してる」
師匠「昔、演劇やってるお兄さんに褒められたことがあるんだ。美声だねって」

弟子「確かに、俺を認めろ!って叫んでる部分は路上アーティストと似てなくもない」
師匠「お金がなくて生活が苦しいところもそのまんま」
弟子「金正恩自身はおいしいものを食べすぎて太りまくってますけどね」
師匠「近代資本主義では貧困者ほど太る傾向が認められる」
弟子「自分が太っていることへの言い訳ですか。でもまあ、北朝鮮は貧困国ですよね」

師匠「お金がないからやけくそになって自作曲を歌いまくる」
弟子「近所迷惑な話です」
師匠「しかもなぜか結構いい曲なんだ」
弟子「半世紀前に大ヒットした曲をまんまパクってますからね」
師匠「水爆実験でゴジラが誕生したのが1954年だから、半世紀どころじゃない」

弟子「で、金正恩青年はひたすら自作曲を歌い続けるわけですね」
師匠「魂の叫びだから」
弟子「近所が苦情を言っても聞く耳を持たない」
師匠「聴く耳がないのは隣近所の愚民の方だから」
弟子「若いアーティストってのはめんどくさい生き物ですね」

師匠「パトロンはついてるのよ。お金を出してくれるお姉さんとかがバックにいる」
弟子「ああ、年増のセレブ女子とか喜んでお金を出しそうですね」
師匠「おまえは~いい女だ~♪」
弟子「頑張ってねマー君、応援してるわよ、ビックになって私をメロメロにして!」
師匠「なんだい、急に」
弟子「三十近い自称アーティストが夢を語る姿って、苦手なんですよ」
師匠「君も漫画家を夢見る自称アーティストだから、身につまされるのね」

弟子「金正恩は思い通りにならない世の中に核ミサイルをぶつける若者なんですね」
師匠「僕にはそういう風に見えてしまう。たぶん根っこの部分は似てるんだよ」
弟子「だから見ていると自分の若いころを思い出してイライラしてしまう」
師匠「六畳の部屋でひたすら原稿を描き殴ってた時代がよみがえる」
弟子「この作品で天下をとってやるぞ!」
師匠「そうそう、傑作を作れば未来は変わると単純に信じてたよね」

弟子「金正恩が核ミサイルに込めている願いは、なんとなくわかりました」
師匠「この一発で世界は変わる」
弟子「田舎のお父さんお母さんが泣いているぞ」
師匠「世間様に申し訳が立たない、いいかげん夢を諦めて孫の顔をみせておくれ」
弟子「やめてください、ものすごく心がえぐられる」

師匠「俺はピックな~スーパーアーティスト~♪」
弟子「ご近所さんもたまりかねて、とうとう警察に通報してしまった」
師匠「そこで駆け付けたのは天下のジャスラック」
弟子「なんでやねん」
師匠「あなた、お金は払ってるんですか。勝手に音楽やっちゃいけないんですよ」
弟子「自作曲なんでしょ?」
師匠「お金払ってくれないと訴えますよ」
弟子「理不尽だなぁ」

師匠「潰しますよ」
弟子「勘弁してください、生活がかかってるんです」
師匠「そのギターを破壊します」
弟子「……金正恩にちょっとだけ同情してしまう」
師匠「パトロンさんに言いつけて、お金を渡さないようにします」
弟子「石油禁輸決議ですね」
師匠「いい年なんだから、もう変な夢は見ないで真面目に働いてください」
弟子「ジャスラックの是非はともかく、言ってることは正しい気がする」
師匠「頑張れ金正恩!」
弟子「だからどうしてそうなる!」

師匠「嫌いなんだよ、ジャスラック」
弟子「気持ちはわかるけど、核兵器はさすがに迷惑でしょう」
師匠「自前で開発したもんを持ってて何が悪い」
弟子「そりゃそうですけど、その核兵器ってソビエト系のパクリもんでしょ?」
師匠「偉大な創作物です」
弟子「だから近所迷惑なんですって」
師匠「俺がいかにビックなアーティストであるか、周辺諸国は思い知るべきである」
弟子「なんか金正恩が憑依してる。あんたは○○の科学の偉い人か」

師匠「みんな核兵器持ってるのに、なんで僕が持ってちゃいけないのさ」
弟子「核不拡散の取り決めがあるんですよ」
師匠「大国のエゴだ」
弟子「そりゃそうかもしれないけど」
師匠「こんなすごい核兵器を作っちゃう僕を、周辺諸国は認めるべきである」
弟子「僕を認めてって、まるで売れないアーティストみたいだ」
師匠「……つまり、そういうことなのかなって」

弟子「やっと正気にもどってくれた。……確かに金正恩は路上アーティストですね」
師匠「ジャスラックのいかがわしさに反旗を振りかざすところは認めてもいいけど」
弟子「別にジャスラックは関係ないですよ」
師匠「結局は利権なんだよね」
弟子「なんだかとってつけたような結論だなぁ」
師匠「金正恩君もいい年なんだから、いいかげん定職につくべきだと思う」
弟子「身につまされるからやめて」

 2

師匠「眞子様がご婚約を発表なされた」
弟子「秋篠宮殿下のご息女であらせられます」
師匠「このあいだまで紀子さんフィーバーで盛り上がってたのに、早いもんだね」
弟子「いつの話ですか」
師匠「秋篠宮が礼宮って言ってた時代の話」
弟子「四半世紀も昔のことじゃないですか」

師匠「もうそんなになるかね」
弟子「あのとき生まれたのが眞子様ですから」
師匠「あの子いくつ?」
弟子「25歳です」
師匠「早いなぁ」

弟子「ボスジャンが生まれたのが25年前です」
師匠「缶コーヒーのBOSSが特典で作ったジャンバーだよね」
弟子「このあいだテレビCMで25周年記念って言ってました」
師匠「トミー・リー・ジョーンズはずっと見ていたってやつね」

弟子「いいですよね、ボスジャン」
師匠「背中にBOSSって書いてあるの。それだけなんだけど、男としては憧れる」
弟子「何か思い出があるそうで」
師匠「25年前に食料品の問屋さんでアルバイトしていたことがあってね」
弟子「ほうほう」
師匠「お店の偉い人が持ってたから、くださいってお願いしたの」
弟子「いけずうずうしい話ですね」

師匠「だってカッコいいんだもん」
弟子「問屋さんだと営業の人が持ってくるからいっぱいありそうですね」
師匠「うん、お客さんも欲しがるから、お得意さんにみんな配ってたみたい」
弟子「ああ、あの人らにアピールするって意味もあったんだ」
師匠「中間業者を引きつけなきゃ商品が回らないからね」

弟子「業者さんがみんなボスジャンを着ていた」
師匠「くやしかったなぁ。僕も欲しかった」
弟子「バイト風情が言ってもくれないでしょう」
師匠「でもあんまりしつこく欲しがってたら、代わりのものをくれたんだよ」
弟子「ごね得ってやつですか。何をもらったんです?」
師匠「MAJORのアポロキャップ」
弟子「……なんか微妙なものが出てきた」
師匠「黒地に金文字でMAJORって書いてあるの」
弟子「缶コーヒーつながりですか」
師匠「けっこう気に入ってたんだ」

弟子「ま、良かったじゃないですか」
師匠「銭湯の帰りにカバンにくっつけてたら、途中で落としてなくしちゃった」
弟子「ああ」
師匠「悲しかったなぁ」
弟子「今ならそれなりに価値があったかもしれませんね」
師匠「思い出はお金には代えられないもんだよ」

2017年9月 4日 (月)

対話篇

 1

師匠「仕事で頑張ったら肩が壊れた」
弟子「大丈夫ですか?なんだかめっちゃ痛そうなんだけど」
師匠「背中が割れるように痛いんだよね。それでもなんとか原稿を上げたんだけど」
弟子「苦労して無理やり女の子の絵を入れてましたね」
師匠「そこはポリシーだから。旅打ち漫画は男臭くなりがちだから強引に描き込んでる」
弟子「肩が痛いのに無理しちゃって」
師匠「頑張ってチャイナドレスの女の子とバニー風の女の子描いたんだけどね」
弟子「バニーガールがパチスロ打っちゃダメでしょ」
師匠「編集とか、怒ってるかもしれないね。健全な誌面を目指してるって言ってたし」
弟子「ダメじゃないですか」
師匠「健全って言われると、なんか抵抗したくなるんだよね。漫画家のサガかな」

弟子「なんでチャイナドレスなんか描いたんです?」
師匠「モブを描きまして」
弟子「ああ、二百人とかさらっと注文来てましたね」
師匠「深夜にパチンコ屋さんの前で並んでるの。それを一日がかりで描きまして」
弟子「笑っちゃうくらい細かく描き込んでますよね」
師匠「朝になって行列が二百人に達したところで、なんか嫌になってきた(笑)」
弟子「それはまあ、仕方がないと思います。写経並みに地味な作業ですから」
師匠「で、ヤケになってどんどんおかしなものを描き始める」
弟子「それでチャイナですか」
師匠「うん、なんか気が付いたらチャイナドレスの女の子を描いてた」
弟子「無意識に描いちゃうんだ」
師匠「けっこういい下描きだったから、そのままペン入れしちゃったの」

師匠「で、いつもは時間経過のコマにお店のお姉さんを描いてるんだけどね」
弟子「ネームではそうなってますね。”特に意味もなくお姉ちゃん”ってやつ」
師匠「ついでだからそこもチャイナにしてね、もう一コマもバニーに変更した」
弟子「担当さん、呆れてるんじゃないですか?」
師匠「かもね」
弟子「でも描いちゃう」
師匠「頭の中に絵が出来てたから、描いちゃった方が早かったんだ」
弟子「絵って、頭の中に出来てるもんなんですか」
師匠「けっこうリアルに想像してるよ。で、それをペンの先でなぞってる」
弟子「写真を見て描いてるのかと思ってました」
師匠「それだと著作権がうるさいから……」

弟子「で、仕事中にバニーガールのことをイメージしていたと」
師匠「若いころによくバニーのお店に連れていってもらったの」
弟子「うわ……」
師匠「銀座の割と高級そうなお店」
弟子「そういう趣味があるなんて知らなかった……」
師匠「担当さんの趣味だね。昭和世代の大御所漫画家さんとご一緒させてもらったの」
弟子「女の子にウサギの格好をさせて服従させる……」
師匠「床に膝をついて水割り作ってくれたね」
弟子「うわ……」
師匠「でもその頃はバニーなんて好きでも何でもなかったんだけどね」
弟子「今は好きなんだ」
師匠「池袋の交差点で信号待ちしてたら自転車に乗ったバニーさんが目の前に現れてね」
弟子「あの格好で自転車乗ってたんですか?
師匠「緊急の買い出しかなんかだったのかな。ウサギの耳をつけたままで」
弟子「なんてか……ある意味カッコいいかもしれませんね」
師匠「サドルの上のお尻に白いしっぽが生えててね。なんかすごくイナセだった」

 2

弟子「今回はまた性懲りもなく音楽の話をするつもりなんですか?」
師匠「肩が壊れて痛いんで、寝転がって音楽ばっかり聴いてるの」
弟子「はたから見るとただの怠け者ですね」
師匠「激痛が走るんだからしょうがない。昨日も病院で血液検査があったんだけど」
弟子「ついでに診てもらえば良かったのに……」
師匠「採血が済んでから腕を上に向けて三分間待つのが苦行だった」
弟子「四十肩のひどい奴なんですね」
師匠「若いお姉さん看護師が見下ろす中、五十男が苦痛に顔をゆがめているという」
弟子「あの女の子もずいぶん採血が上手くなったみたいですね」
師匠「うん、いつもは怖くて見てられないんだけど、肩の方が痛かったんでつい」
弟子「注射針が刺さるところをじっくり観察してしまったと」
師匠「肩の痛みに比べれば、針とかむしろ気持ちがいいじゃないかって」
弟子「そんなに痛いなら病院へ……って病院でしたね、そこ」

師匠「で、普通の聴いても飽きちゃうから、自分で選曲したの聴いてる」
弟子「プレイリストってやつですね。古いロックとかですか」
師匠「それもやってるね。クイーンのブライアン・メイの曲だけ集めてみたりとか」
弟子「クイーンってベスト盤が最高で、アルバムはイマイチってよく言われてました」
師匠「二枚目のQueenⅡは評判いいけど、それ以外は構成がゆるい気がする」
弟子「ジャズってアルバム、大好きですよね」
師匠「一曲目のインパクトと最後の方のDon't stop me nowが大好きだから」
弟子「他のアルバムはあんまり聴かないんですか?」
師匠「いい曲は多いけど、全体として聴くのがつらい感じがする」
弟子「なるほど」
師匠「だからギター中心とか、フレディのボーカル中心とか、まとめた方がいい」


師匠「で、これはクイーンのロックっぽいのをまとめたプレイリスト」
弟子「ウイー・ウイル・ロックユーから始まるんですか。ミーハーですね」
師匠「次でいきなりヘッドロングに飛ぶ。で、次がストーンコールドクレイジー」
弟子「その次がシア・ハートアタックですか」
師匠「テンションがおかしい曲ばっかりが続く」
弟子「でも最後の方がどんどん渋くなってくる。スリープ・オン・サイドウォークとか」
師匠「おしまいはイッツ・ツー・レイト。ここできっぱり終わるのがいい」
弟子「アルバムだとこのあとメランコリーブルースが続きますけど」
師匠「フレディのバラードっぽいので終わるの、あんまり好きじゃないんだ」

弟子「それと同じ選曲をクラシックでもやる」
師匠「モーツァルトの緩徐楽章だけ集めて聴いてるんだ」
弟子「邪道ですね」
師匠「そうかな?」
弟子「交響曲とか、三楽章四楽章で構成されているものを抜き出して聴くのは邪道です」
師匠「頭が固いなぁ」
弟子「ドボルザークの新世界の第四楽章だけ聴きまくるくらい邪道です」
師匠「あそこが一番盛り上がるし、しょうがないじゃん」
弟子「第一楽章からの積み重ねがあって、第四楽章が盛り上がるんです」

師匠「でもモーツァルトくらいだと交響曲も組曲の発展形って感じだし」
弟子「やっぱりばらして聴くんだ……」
師匠「まあ、ちょっとこのプレイリスト見てみ?」
弟子「……いきなり魔笛の’夜の女王のアリア’から始まってるじゃないですか」
師匠「ザラストロをぶっ殺せ」
弟子「純真な若者を戦争へとけしかける邪悪な曲ですね」
師匠「次がレクイエムのディエス・イレ(怒りの日)ピアノ協20番の第一楽章と続く」
弟子「めっちゃ破壊的なモーツァルトだ……」
師匠「グルダのCDだとカデンツァがベートーヴェンでますます破壊的」
弟子「神経が焼き切れますよ」
師匠「次はおなじみ交響曲40番ホ短調の第一楽章」
弟子「ガーディナー指揮で高速演奏なのがまた恐ろしい」
師匠「BGMで聴くにはこれくらい早い方が気持ちいいよね」
弟子「次は?」
師匠「レクイエムの”呪われ退けられし者たちが”」
弟子「映画でモーツァルトが死にそうになってるときにかかる曲ですね」
師匠「アマデウスね。奥さんが湯治場から馬車を走らせて帰ってくるの」
弟子「その次が」
師匠「これもアマデウスつながりで交響曲25番の第一楽章」
弟子「サリエリが自殺未遂した冒頭シーンで流れて有名になった曲」
師匠「僕も高校生の時に映画で観てから好きになったんだ」
弟子「たいへんだーたいへんだーサリエリさんがー死にそうだー」
師匠「変な歌詞をつけないように」

弟子「次はまた超有名曲」
師匠「ピアノ協奏曲23番の第二楽章」
弟子「この流れで聴くと死にそうに暗い曲に思えます」
師匠「23番自体は明るい曲なんだけどね」
弟子「呪われたモーツァルト」
師匠「で、レクイエムのラクリモサ(涙の日)でとどめを刺す」
弟子「神経がもたないです……」
師匠「で、その次が二台のピアノのための協奏曲の最終楽章」
弟子「いきなり超ネアカになった」
師匠「ホルン協奏曲第3番の終楽章」
弟子「どんどんネアカになっていく」
師匠「さんざん地獄を味わった後に仏のモーツァルトがやってくるわけだな」
弟子「次は?」
師匠「ハフナーセレナードのロンド楽章」
弟子「バイオリンが高速で弾きまくるやつですね」
師匠「バイオリニストが必死の形相で弾いてるのを想像すると楽しいよね」
弟子「ネアカもここまで突き抜けると恐怖です」

師匠「次がピアノ協奏曲26番戴冠式の終楽章」
弟子「明るいですね」
師匠「スキップしてるよね、モーツァルト」
弟子「やけくそのようにも聴こえます」
師匠「最後がジュピターの終楽章。交響曲史上、もっとも完璧な締めの曲」
弟子「とうとう天国まですっ飛んでしまった」
師匠「終わりよければすべて良し」
弟子「まあ、あの曲は最終楽章だけ繰り返し聴いても許されるかも」
師匠「昔、画家の東山魁夷のインタビュー番組があってね」
弟子「はい」
師匠「徹夜で富士山の絵を描いてたらBGMがジュピターになった」
弟子「え……日本画家でもBGM流すんだ」
師匠「うん、で、ちょっと煮詰まってたんだけど終楽章が流れる中、アトリエに朝の光が射し込んできてね」
弟子「ほう」
師匠「一気にテンションが上がって絵が仕上がってしまったと」
弟子「なるほど、なんかわかります。富士にはフーガがよく似合う」
師匠「これがもし新世界の終楽章だったら富士山が噴火していたかもしれない」
弟子「……東山魁夷はそんな富士山は描かないと思いますよ」

パワードスーツ


パワードスーツを着用して、この文章を打ち込んでいる。

八月が終わって、一気に気候が秋めいてしまったために、体が変化に追いつかなかった。
ぶっちゃけ、背中が滅茶苦茶痛い。肩甲骨のあたりが内側からえぐり込むように痛い。
で、しばらく寝転がっていたら治るかなと思っていたのだけど、治らんかった。

アニマックスで機動戦士ガンダム、ジ・オリジンの連続放送があって、
ララア・スンが出てきて、おお、かわいいじゃねぇか、とんだオジサンキラーだぜ、
なんて思ったりしていたのだけど、
それでも激痛は全然収まらない。

金曜に検査で病院に出向いたとき、内科の先生に話してみたのだけど、
「いやあ、血液検査の結果は滅茶苦茶健康ですね!」
と、数字の素晴らしさをさんざん褒められた。
いやいや、直前までタバコをふかしまくって睡眠も2・3時間で原稿に没入していたのに、
いい数字なんて出るわけないでしょ!と思ったけど、前回よりもいい数字が出ていた。
現代の医学はあんまり当てにはならない。

「タバコをふかすと血液が濃くなる傾向があるので、そこんとこよろしくね」

とのことだったので、ちょうどマルボロが最後の一本だったので、
それをふかしてプチ禁煙に入った。肩が痛いのは血液の循環によるものなのは確実なので、
体の中の液体をできるだけきれいに保ってみようと心に決めた。
それで土曜日はガンダムを観ながら安静にしていたのだけど、結局どうにもならんかった。

暑かった日々が突然秋めいて涼しくなってくるこの時期、毎年なんらかの変調はくる。
一度首がどうにも痛くなって、按摩を探して知り合いと街をブラついたことがある。
腰が痛くてベッドでもんどり打ったこともある。今年は右の肩甲骨なのだ。

で、日曜日は隣の町までブラブラ散歩をして、また刻みのタバコを買ってしまった。
おばあちゃんがうめ味の飴ちゃんをサービスしてくれた。
肩に入れ墨を入れたお兄ちゃんが店の前に陣取っていて邪魔だったけど、それをかき分け、
ふらふらと踏切の方へと歩く。
目の前に大きなパチンコ屋がある。ああ、仕事しなくちゃ。

でも机に向かって煙管をふかしていても、十分と我慢が出来ない。とにかく痛い。
こりゃどうにもならんなと、また横になってみるのだけど、そうそう寝てもいられない。
一日絵を描かないとイライラするのはタバコと同じ。なんか描きたい。

で、思いついた。パワードスーツを使おう。

ガンダムはもともとパワードスーツが題材のSF小説が元ネタだったと思う。
宇宙の戦士だったかな。ハイラインのやつ。
人間の機能を機械的に拡張させて、スーパーマンになる。
僕が子供の頃は完全な夢物語だったけど、この頃は実用化の一歩手前まで来ているらしい。
日本だと主に介護目的だけど、重い荷物を持ち上げたり、階段を楽に登ったりできる。
自分の住んでいる街は坂が多くて、よく電動アシスト自転車に乗ってる主婦に会うけど、
あれもまた、一種のパワードスーツだ。

で、たすき掛けに肩をひもでくくってみた。
肩が背中の方に強制的に持ち上げられて、痛いのが少しだけ緩和される。
で、今その状態で文章を打ち込んでいたりする。
プチ・パワードスーツだ。

ガンダムはどうやらこのまま本編の方まで作り直されるらしい。
銀河英雄伝説も作り直されるって話があるけど、あちらが不安いっぱいなのに対し、
こちらはジ・オリジンでだいたいのレベルは想像がつくので、割と楽しみだ。

コミカライズの方は毎月雑誌を買って読んでた。
で、最後の方のセイラ大活躍とか、ちょっと「ん?」な部分はあるし、
ランバラルがイメージよりずいぶん若返っているって個人的な難点もある。
マグネットコーティングのモスク・ハン博士とか、フラナガン博士のデザインとか、
テレビシリーズと違うところはやっぱり気になる。
(安彦先生が病気で倒れていた間にスタッフでデザインを作ってた部分)
でも大筋では満足のいくコミカライズだったので、やっぱりアニメ化はうれしい。

声優さんについても、フラウ・ボゥなんかはすでに前日談でアニメ化されているけど、
志熊理科・福圓美里さんが幼馴染をやってて好感が持てた。なんか馴染んでる。
ユニバース!
ララアの早見沙織さんはどうなってしまうのか楽しみ。

男性声優陣は続投がほとんどかな。古川登志夫さんのカイシデンは昔のまんま。
でもそれがよい。ギレンは銀河万丈さん。ジオンはまだ十年は戦える。(マ・グベ談)

セイラ役の井上瑤さんはかなり以前にお亡くなりになっているんだけど、
そこをララア役だった潘恵子さんの娘の潘めぐみさんが演じることになる。
プレッシャーはあるだろうけど今のところ好演中。リトルウイッチアカデミア良かったし。
このあいだ俺物語!見たんだけど、大和役もすごくかわいかった。
(あざとくないかわいさって難しいと思う。女の人は特に)

同じく、井上さんが演じていたマスコットロボのハロは新井里美さん。
まったく気が付かなくて(馴染んでて)、後でテロップで確認して笑ってしまった。
絶妙のキャスティング。この方がミライ役でも面白かった。

そのミライ役は藤村歩さん。UCのミネバ様。
今んとこあんまり喋ってないけど、ホワイトベースのお母さんっぽい感じをどう出すか、
楽しみだったりする。
どうでもいいけどジ・オリジンでミネバのお母さんがドズルと絡むシーンは、
なんか微笑ましくてニヤニヤしてしまった。あの人がソロモンでああなって、
その後アクシズでああなっちゃうんだなと、しみじみする。「ゼナ」って名前が出ると、
条件反射で「行け!ミネバとともに!」と返してしまうのは、なんなんだろうね。

で、シャアとアムロは当然のごとく池田古谷の定番コンビだったりする。
まあ、学生時代のシャアを池田秀一さんがやるのはどうかと思ったけど、
ファースト世代にはむしろあれの方が納得もいくので、全然OK。
ララアとの出会いのシーンとか、アニメ化されてちょっとうれしかった。
あれが池田さん以外の声だったらなんか嫌だったと思う。
アムロの古谷徹さんもイケルはず。

ブライト艦長の鈴置さんが鬼籍に入られているのは残念だけど、
UCから引き続き成田剣さんだと思われるので、まったく不安はない。
「左舷弾幕薄いよ!」「スタンバっとけ!」を思いっきりやっちゃってもらいたい。

なんだ、盤石ではないか!

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